快適で健康な住まいを実現する 設計のセカンドオピニオン -集合住宅編-
東京都内にあるコーポラティブ住宅(※)にお住まいのご家族。
1階と地下1階のメゾネットタイプの住戸を設計されるにあたり、ご相談を頂いてから2年。
当時の家づくりの課題や解決に向けての様子、現在の暮らしについてインタビューさせて頂きました。
(※)コーポラティブ住宅とは
住戸ごとに自由設計ができる集合住宅(マンション)。コーディネーター会社のコンセプトに賛同する入居者が組合を結成し、自ら事業主となって事業計画・土地の取得・建物の設計・工事の発注・管理等進めていく方式です。利便性のよい土地を合理的な価格で購入できる事、ライフスタイルに合わせた設計ができる事が特長です。
我が家のリビングは地下1階 「日差しをどう取り込むか」が最大のテーマ
[Yご夫妻]
私たちが長い時間を過ごすリビング・ダイニング・キッチンは地下1階にあるため、設計段階からこの空間全体に日差しをしっかりと取り込む事が家づくりの最大のテーマでした。
そのため南側の窓を大きくすると同時に、1階の床を取って地下1階まで光が届くよう吹き抜けを考えていたのですが、当然家づくりは初めてですし、想像だけでデザインや性能などを決めて「本当に日差しが入る空間にできるのだろうか?」という不安がありました。
それに加えて、寒さ対策のための断熱・気密や風通しのよい空間にするにはどうしたらよいのかという疑問もあり、こういった不安や疑問を解決したくて、温熱環境を大切に設計をされている冨田さん(当社代表)に相談することにしました。
ツールを使って1年間の日差しの入り方をシミュレーション
[Yご夫妻]
私たちの住戸は1階南側に占有庭があって、その先には3階建ての別の集合住宅が建っています。そういった周辺環境も考慮した上で、一年中、室内に日差しを取り込みたかったので、南側の窓の設計と間取りには悩みました。
冨田さんに相談したところ、私たちの住戸の設計図を元に、1年を通じて地下1階にどのくらい日差しが入るかを検証できる手製のツールを作ってくれました。
このツールは専門家知識がない私たちでも直感的に使えるものだったので、これを使いながら、窓や吹き抜けの大きさ・高さ・デザインを決めていくことができ、すごく役立ちましたし、ツールのおかげで日差しの予測ができたので「この設計でおそらく大丈夫だろう」と思えました。
家づくりの最中に安心感を持てたのは本当に大きかったです。
おかげさまで、室内にたっぷり日差しが入りますし、相談して本当によかったなと思っています。
[パッシブデザインプラス 冨田 享祐]
限られた時間と仕様の中で、スピード感を持ってどう解決すべきか、Yご夫妻はご自身でしっかり調査され、それでもわからないポイントを相談されていましたよね。でもその相談内容は、実は、私たち設計士でも迷う大切なポイントばかりでした。
私は産婆さんのような立場で寄り添いながら、最善の対応策を一緒に考えていったという感じですね。このツールも、そういった中から発明したものです。
ツールは、OHPフィルムに、春分・夏至・秋分・冬至の太陽の方位・高さとそれに伴う日の入り方を点線で示したものです。
立面図や平面図の上に重ねてもらい、点線が伸びる先まで日差しが入ることが分かるというシンプルなものですが、例えば窓や桟の大きさを変えて点線をなぞってみると、いつ・どこまで窓から日差しが入り、桟で遮断されている、というのが目視でわかるんです。
最近では日射やそれに伴うコストも計算できる温熱環境専門のソフトウェアを使っているのですが、建主が操作しそれを読み取るのは難しい。一方このツールはアナログですが、図面に重ねるだけという作業で建主自身が家に持ち帰り、心ゆくまでじっくり確認ができるという点で、今でも”使えるなあ”と思っています。
太陽の明るさを感じ、月を望むリビング
[Yご夫妻]
肌感覚ですが、晴れている日に地下1階のリビングでゴロンとするのがすごく気持ちよくて幸せを感じています。これは、数センチ単位で冨田さんと「この窓の高さと桟の位置なら冬至の日でも日差しがしっかり入るから大丈夫」という検討を何度も積み重ねさせてもらった結果なんだろうなと思います。
あと、設計時に冨田さんから「この間取りと窓の関係だとリビングで座った時に月がみえるね」と言われたのですが、住み始めて本当に月が見えて感動しました。5歳になる息子は、月を見つけては「ママ、お月様がでてるよ」と教えてくれるのですが、その度に嬉しい気持ちになります。
吹き抜けでも寒くない、窓の断熱・気密
[Yご夫妻]
吹き抜けにしようと検討していた時、身内から「自分の家も吹き抜けにしたが、冬はすごく寒い。断熱をどうするか真剣に考えておいた方がいい。」というアドバイスをもらっていました。
我が家は集合住宅なので建物自体の断熱・気密性能まで要望を出すことはできませんが、私たちの設計範囲でどんな対策ができるかを冨田さんに一緒に考えてもらいました。
最大のポイントは大きな窓。限られた集合住宅用の規格の中で、可能な限り断熱・気密性能が高い窓にしたかったので、それについて大変専門的で、かつ有益なアドバイスをもらいました。
提案してもらった窓は、性能・コスト上で現実的で、かつ「ここまでだったら、コーディネーター会社に依頼をかけても無理のないもの」だったので、安心してコーディネーター会社へ変更依頼をかけられました。
お陰様で最も納得のいく窓を選択できたと思っています。
[パッシブデザインプラス 冨田 享祐]
窓は複層ガラス・アルゴンガス入りで、できるだけ空気層を大きくとるようにお伝えしましたね。窓のサッシは木造住宅用の方が発展していて、鉄筋コンクリート造の集合住宅ではあまり選べないのです。実際にもともとの決まったサッシ規格の延長で、現実的でもっともよい性能のガラス・空気層の組み合わせをいくつか選びました。その中で、コーディネーター会社が対応できるものに決まりましたね。
私はコールドドラフト(冷たい窓辺から発生する下降冷気)や冷輻射(壁や窓が冷えると、それに向けて体温が奪われ身体が冷えてしまう現象)が体感や健康にどれくらい影響を及ぼすか、常に意識しています。なので、窓は妥協せず「ここまでやった方がいい」と言い切れたのだと思います。
「これで絶対大丈夫」というのはないけど、図面から熱の動きをどう体感するかを読み取ってイメージしていくと「あー、この部分は住んでから不満が残るな」という事がわかります。
そういった暑さ・寒さの原因を一緒に共有しながら、辛い時期をどう取り除くか・快適な時間をどう増やすかを助言していくことが、温熱環境コンサルティングの意義だろうなと思っています。
限られた時間で、思い通りに手直しができました
[Yご夫妻]
南側の大きな窓はカーテンをつけていませんが、真冬でも寒くないんです。集合住宅だからという理由もあるけど、やっぱり窓の性能が良いのだと思います。室内は暖かくて快適です。
真冬の本当に寒い日だけ、窓際に座ると少し寒く感じるので上着を着ますが、窓から離れたらそれも感じません。
我が家はほぼ間仕切りがない空間ですが、冬でも暖房器具は床暖のみ。それで気持ちよく過ごせていますよ。
[Yご夫妻]
もう1つ、依頼して大きかったのは、設計のセカンドオピニオンをもらえたということでした。
我が家はコーポラティブ住宅ということもあり、限られた期間内に自分の住戸の設計を終わらせないといけません。でも、とにかく決める事が多い。
明確なイメージがないまま進めないといけないし、後になって「こうしたい」と気づいても、時間切れでやり直せないことも多々あります。
そんな中、冨田さんにしっかり話を聞いてもらい、スピード感を持って具体的・現実的なアドバイスをもらえたおかげで、最小限の時間で思うような手直しをすることができました。
コンサルティングの価値
[Yご夫妻]
もちろん、コーポラティブ住宅ですから、私たちの住戸を担当してくださる設計士の方が他にいます。でも専門家の方も得意分野はそれぞれで違いますし、第三者の客観的な意見を伺うことで担当の設計士の発言に腹落ちすることもあります。
窓ガラスの性能は冨田さんからアドバイスをもらわなければ分からなかったですし、他にも冷暖房計画、通風や排熱のこと、それを生かす間取り、素材や照明デザインなど多岐に渡って、意識の及ばない所に気づかせてもらい、とても助かりました。
お願いしなかった場合との比較はできませんが、いろいろ相談に乗ってもらい、議論しつくすことで納得できる決断ができたことが現在の暮らしの満足感・充実感に繋がっています。
実際、前の住まいよりも広い空間になりましたが光熱費も下がりましたし、何よりもコロナの影響でステイホーム期間が長い中、家族みんなが自宅で快適に過ごせていることに幸せを感じています。
今後はさらに一歩進めて、夏の眩しさ対策もやってみようと思います。当時ご提案してもらっていたハニカムサーモスクリーンやタープなども検討しようかなと思っていますよ。
[パッシブデザインプラス 冨田 享祐]
Yご夫妻の暮らしにお役に立つ事ができて嬉しく思います。
このインタビューで、太陽・土・植物といった外とのつながりを感じながらとても豊かに暮らされている様子がよくわかりました。
Yご夫妻の温熱環境とパッシブデザインに対する共感があってこそ、コンサルティングの意義があったのだなと改めて実感しています。
これからも暮らしの中で困り事がありましたら相談ください。
インタビューへのご協力、ありがとうございました。
撮影: 株式会社ラコルト